第二編 地頭時代

第三章 神西家の所領


 神西家の所領はその後次第に広まったようである。ここに文永8年(1271)から130年ばかり後の明徳年間(1390〜1393)の文書2通をあげてみよう。

 ゆづ(譲)りわた(渡)す出雲国そのやま(園山)のしやう(庄)の内、神西の1そうりやう(惣領)しき(式)の事惟通ちう(重)代さうてん(相伝)のしょりやう(所領)たるによってたいたい(代々)の2てつきもんしょ(手継文書)をあいそへて、六郎清通に永代を3かきんてゆつ(譲)りわた(渡)す所なり。いささかも他のさまた(妨)けあるへからす。但(ただし)此内に女し(同じ)きやうたつのゆつりあり。わくらい(惑乱)あるへからす。りやうけ(領家)御□□はせんれい(先例)にまかせて沙汰をいたすへし。よって後日の為のゆつり状件(くだん)の如(ごと)し。

   明徳3年(1392)3日2日     惟通

 当国神門郡朝山郷の内、稗原左京亮跡、但し稗原を除くの事、給恩となし相計(あいはか)る所なり。
 先例に任(まか)せて沙汰致すべきの状、件(くだん)の如(ごと)し。

   明徳4年6日6日
                     (京極 高秀)
     神西三郎六郎殿

 「そのやまの庄」とは、妙見外園辺であるらしい。園山庄は、武家時代の初めから藤原師原(もろはら)領であった。そのうちの1部が神西家領に変わった。また前掲文書に 「庄の内」とあることにも注意しなければならない。これは、惟通は隠居して六郎清通に譲ったのではないかと思われる。六郎清通が通称三郎六郎といっていたことは、朝山郷内加給指令書に出ている。

 伝説によると、高瀬山(保知石間谷の境)の殿様と高倉の殿様(神西氏のこと)とが博奕(ばくち)をうち、高瀬の殿様の負けとなり、間谷池の水を崎原へかけるようになったという話がある。間谷池の水を崎原へかけるようになったという話がある。問答池は博奕池という名がついている。高瀬山の殿様とは、古志家の分家の保知石貞信のことであると思う。貞信の後、1、2代で保知石氏は滅んでいる。伝説のころには、神西本庄も神西家の知行になったようである。

 出雲の尼子経久は知勇兼備の名将で、山陰山陽11か国を領国としていた。その子晴久も、山陰山陽8か国の守護である。神西家も尼子の麾下(きか)について有力な武将であった。尼子経久の代に作られた分限(ぶげん)帳の中には次のように載っている。

  美作の内 4,667石 神西三郎左衛門 足軽(あしがる)大将

 これは本領の外の加給地である。その後尼子氏の威勢は次第に衰え、永禄3年(1560)に、晴久が病死し、義久が後を継いだころはわずか出雲一国を領していた。それに対し敵方の毛利元就は、山陰山陽五か国を固め、勢いに乗じて出雲を併呑しようとする時である。この時、尼子義久は神西家へ下の6安堵(あんど)を下している。

   神西越前守当(まさ)に7知行(ちぎょう)たるべき事

 一、神西庄波賀佐村
 一、久村
 一、清松村
 一、新本庄の内三分
 一、大東の内正法院名

  右 父広通の8当行に相違無く領知あるべきもの也。よって件(くだん)の如し。

     永禄5年(1562)2月19日             義久

         神西三郎左衛門殴

 右と同じ日附でもう1通安堵状がある。それには「三分」の名がなくて「智井宮社之内」としてある。前の文書を訂正したものと思われる。応仁ごろ安原二分は為信の所領である。文明(1469〜1486)の頃は目黒彦太郎の知行であった。

 神西家の所領の推移を概説的に述べてみる。初めは神西新庄を持っていたが、このうちの二分どころと三分どころとは他の地頭の所領になった。しかし、残りの五分(西神西だと思う)を持っている時には、園山庄と神西本庄を所領としたのではないだろうか。知井宮の1部分を領し、さらに朝山郷内にもある。最後には、園山庄、朝山郷を失った代りに、久村、清松村、大原郡大東の1部を知行した。

  【注】1惣領式=相続財産のこと 2てつき文書=手継文書(中世不動産の移動を証明する文書、その移動ごとに新しい文書を付け加えた) 3かきん=「家訓」か、この箇所文意不明 4きやうたつ=「暁達」(奥義までさとる、詳しく知りぬいていること)か、この箇所の文意不明 5りやうけ=領家で、領主のこと、ここでは京極家をさすか。6安堵=鎌倉・室町時代に幕府や領主などが武家、社寺の所領を保障し確認すること、旧知行地をそのまま賜わること。安堵状はその承認の文書 7知行=中世、所領を支配すること。また家臣に恩給された領地。近世には幕府・藩から俸禄として給付された土地を支配することもいう 8当行=知行すべきところの意か。

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